[インターネットと教育] [2000年の調査(123| 2000年の調査45)] [ 99年| 98年| 97年| 96年 ] [大阪教育大学]


インターネットの教育利用の現状 '00.1


1.はじめに 
2.学校のインターネット接続環境 
3.教育・学習情報 
4.交流・共同学習 
5.まとめ 
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  2001年3月20日準公開、4月1日公開予定


概要

 日本におけるインターネットの教育利用は,100校プロジェクトやこねっと・プランなどの実験的プロジェクトによる模索期を終えて、全国4万校への拡大をにらんだ展開期に移行している.2000年1月の時点で公開されている国内の小学校,中学校,高等学校,盲・聾・養護学校のウェブページ数の合計の総学校数に対する比率は,昨年同期の11.7%から19.8%にまで増加した.ウェブページを公開している学校のうち61%がダイアルアップで,また,35%が常時接続でインターネットを利用している. 一方でインターネットに接続されている教室数は9%程度にとどまり,アメリカ合衆国の63%という水準から大きく遅れていることがわかった.

キーワード: インターネット,教育・学習情報,交流・共同学習,ウェブページ,電子メール

1.はじめに

 我々は1996年から毎年,インターネット上にウェブページを公開している学校のページ管理者を対象としてアンケート調査を行い,日本におけるインターネットの教育利用の動向を定点観測している.今回がその5回目となる.この5年間に日本のインターネットと教育をめぐる環境は大きく変化してきた.

 学校においてインターネットを利用する際には,(1)接続環境の問題,(2)運用環境の問題,(3)授業実践の問題の3つの課題を解決する必要がある.国内のインターネット教育利用プロジェクトの先駆けとなった100校プロジェクト(ネットワーク利用環境提供事業)からはじまる5年間は,日本におけるインターネット教育利用の実験的な検証の段階(第1ステージ)と呼ぶことができ,接続環境の問題を中心に様々な試行錯誤が行われた[1].現在行われているインターネットを利用した教育実践のプロトタイプの多くがこの段階で登場している.

 一方,文部省は中央教育審議会の答申[2]を受けて,2001年までに国内のすべての学校をインターネットに接続すると表明した[3].これにより,全国4万2千校への展開を踏まえて,校内ネットワークや地域教育情報ネットワークなどの環境整備が進んでおり,日本のインターネットの教育利用は,全国的な展開の段階(第2ステージ)に入ったといえる.第2ステージでは,技術・法律・倫理的な背景を踏まえた,ネットワークの運用ポリシーやガイドライン,セキュリティの確立などの運用環境の問題が重要性を増している.2002年度からの新しい学習指導要領の実施を控えて,これらの諸環境の整備が急務となっている.

 文部省のコンピュータの新整備計画によれば,これまでのようにコンピュータ教室だけではなく,各教室に2台のコンピュータが設置される.校内LANの整備でこれらがインターネットに接続されれば,各教科や総合的な学習の時間などで,日常的な授業実践にインターネットを利用する普及の段階(第3ステージ)が到来することが期待される.  こうして急速に拡大している日本国内のインターネット教育利用の現状を把握し,問題点を抽出するために,学校ウェブページの開設状況の調査と学校のウェブページ管理者を対象としたアンケート調査を実施した.調査の対象は,ウェブページを公開している各学校のウェブページ管理者であり,電子メールによって依頼を行っている[4].

 今回の調査は2000年3月23日〜4月21日に実施された.2000年1月8日版の「インターネットと教育」[5]に記載されている8303校(高 2781,中 2186,小 3056,特 280)の学校のページの管理者を対象とし,このうち電子メールアドレスが記載されていたものが,6130校(高 2039,中 1421,小 2444,特 226)で,電子メールアドレスの記載率は74%であった.これにもとづいて各都道府県別に調査依頼メールを発送し,890通(高 321,中 201,小 313,特 55)の有効回答を得た.回答率は15%であり昨年の23%に比べて少なくなっている.従ってこのデータからウェブページを公開している学校母集団の性質を推定することは難しいが,昨年までのデータとの比較により回答者集団のある種の傾向を読み取ることは可能であろう.

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2.学校のインターネット環境

2.1 学校ウェブページの開設数と開設率

 日本における初等中等教育に関わる学校ウェブページの一覧を収集しているリンク集はいくつかあるが,そのうち最も網羅的なものは,SCHOOL-NAVIとED-Newsである[6].我々は,これらのリンク集およびYahoo!Japan 等のディレクトリサービス,さらに独自調査を加えて,公開されている日本の学校のウェブページ情報を収集している.1999年の学校ウェブページ開設数は,表1のように70校/週(昨年は39校/週)の割合で増加している.

 今回のアンケート調査に用いた2000年1月8日版の「インターネットと教育」の学校ページのデータによれば,この時点で全国の高等学校の50.7%(34.0%),中学校の19.5%(11.6%),小学校の12.6%(6.6%),盲・聾・養護学校の28.5%(16.1%),合わせると日本の学校の19.8%(11.7%)がインターネット上にウェブページを公開しており,この1年でほぼ倍増していることがわかる(カッコ内は昨年同期の値).

表1 学校ウェブページの開設数の推移

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    年月    高校   中学   小学   養護   合計
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  1995年03月       2        2        5        0         9
  1995年09月      45       44       36       7       132
  1996年03月     117       97       91      15       320
  1996年09月     250      189      217    29       685
  1997年03月     530      412      524      54      1520
  1997年09月     754      621      744      87       2206
  1998年03月    1021      821      957     113      2912
  1998年09月    1450     1063     1343     145      4001
  1999年03月    2037     1439     1834     176      5486
  1999年09月    2412     1822     2578     262      7074
  2000年03月    2808     2208     3047     284      8347
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図1 学校ホームページの開設数の推移

 さて,このデータから,都道府県別のウェブページ開設数を求め,これをその都道府県の総学校数(小学校+中学校+高等学校+盲・聾・養護学校)で割ったものを,学校ウェブページの都道府県別開設率と呼ぶ.学校数は平成11年度の文部省の学校基本調査報告書[7]による.

 学校ウェブページ開設率の上位10県をあげると,岐阜県(48.9%),香川県(46.8%),秋田県(41.5%),京都府(41.1%),佐賀県(37.6%),富山県(35.6%),茨城県(35.1%),石川県(31.8%),高知県(28.4%),岡山県(25.6%)となる.開設率が下位の県では9%程度であり,上位県とはかなりの格差がある.ただし,開設率それ自体が各地域の学校の活動の質に直結しない場合もあるので注意しなければならない.

2.2 学校のインターネット接続形態と接続環境

 1999年3月の文部省の調査[8]によれば,全国の公立学校の35.6%がインターネットに接続されており,また我々のデータから,その時点で全国の学校の11.7%が学校のページを持っていた.つまりインターネットに接続されている学校のおよそ33%(文部省調査では35%)がウェブページを公開している.なお,接続されている学校のウェブページ開設率は昨年に比べ,3-5%減少している.

 昨年からの推移で特徴的なことは,ダイヤルアップ接続が相変わらず主流ではあるが,70%から60%に減少し,逆に専用線接続が20%から35%に増加したことである.アメリカ合衆国の国立教育統計センターの報告[9]によれば,1996年から1999年にかけての4年間で,ダイアルアップ接続が61%から14%に減少し,逆に専用線接続が39%から86%に増加している.日本においても都市部を中心として定額制の接続サービスが整備されつつあるため,学校の常時接続環境も,今後急速に整備されていくことが予想される.

表2 学校のインターネット接続形態

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 インターネット接続形態   高校 中学 小学 養護  合計  比
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 未接続              6     4    12    0     22     2.5%
 公衆線(アナログ)       18     8    14    2     42     4.7%
 公衆線(ISDN)        149   119   197   29    494    55.5%
 専用線(64kbps〜)      105    37    43   12    197    22.1%
 高速専用線(1.5Mbps〜)     34    23    44   10    111    12.5%
 その他                 9    10     3    2     24     2.7%
 合 計             321   201   313   55    890   100.0%
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 学校におけるインターネットに接続された端末数とインターネットが利用できる教室数を調べた結果を次に示す.接続された端末数は,0台1%,1台11%,2-3台10%,4-5台4%,6-10台11%,11-20台10%,21-30台12%,31-40台6%,41-50台13%,51台以上11%となっている.またこれから,今回の調査結果の対象となった学校における,接続された端末の平均台数は29台(高41台,中37台,小13台,養15台)となる.

 日本の学校あたりの平均児童・生徒数を390人とすると[7],接続された端末あたりの平均児童・生徒数は13人であり,インターネットに接続された学校の割合を60%と仮定して全国平均すれば22人という水準に相当する.これは,昨年の60人から急速に改善されてはいるが,アメリカ合衆国の平均9人[9]の約2倍強となっている.

 次に,インターネットを利用できる教室数をみよう.0室13%,1室45%,2室16%,3室5%,4室4%,5室2%,6室2%,7室1%,8室1%,9室以上6%となっている.平均するとインターネットが利用可能な教室数は2.8室(高2.1室,中3.3室,小2.9室,養3.6室)であり,昨年とほとんど変わっていない.

 学校の平均学級数を12.3とし[7],学校あたりの特別教室数を仮に5とすると,今回の調査結果の対象となった学校における教室のインターネット接続率は16%となり,全国の学校で平均すれば9%の水準に相当する.これはアメリカ合衆国の教室の平均接続率63%[8]の1/7にしかすぎない.

図3 接続された端末数           図4 接続された教室数

(青は昨年のデータ,赤は今年のデータ)

表3 学校の設備における問題点

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 設備等の問題         高校  中学 小学  養護 合計  比
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 校内ネットワークが未整備   132    84   160    32   408    45.8%
 接続端末数の不足           80    42   125    21   268    30.1%
 システム保守運営費用不足       86    54    58    11   209    23.5%
 回線費用不足(接続速度)         84    61    59     4   208    23.4%
 メールサーバが校内未設置     42    38    44     8   132    14.8%
 接続端末機能不足           36     9    45     7    97    10.9%
 回線費用不足(接続時間)         45    27    13     3    88     9.9%
 WWWサーバが校内未設置         27    11    29     5    72     8.1%
 その他             110    76    93    19   298    33.5%
 合 計              642   402   626   110  1780   200.0%
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 学校におけるインターネット接続環境の問題を2項目選択で尋ねた結果「校内ネットワークの整備が不十分である」が最も多く46%に達した.また「インターネットに接続できるコンピュータの数が少ない」が30%でこれに続く.接続されたコンピュータの台数に関しては,昨年と比較して改善の傾向がうかがえる.しかし,校内ネットワークの整備は遅れており,新しい学習指導要領における総合的な学習の時間の導入や,各教科におけるコンピュータや情報通信ネットワークの活用を考えた場合,コンピュータ教室への集中配置だけではなく,普通教室への分散配置が重要となるため,早急に校内ネットワークの整備を進める必要がある.


次に続く 
3.教育・学習情報 
4.交流・共同学習 
5.まとめ 

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大阪教育大学 理科教育講座(物理) 越桐國雄 (2001年3月20日)