[インターネットと教育] [99年の調査(123 |45)] [98年の調査] [97年の調査] [96年の調査] [大阪教育大学]


インターネットの教育利用の現状 '99.1


1.はじめに 
2.学校のホームページと接続環境 
3.教育・学習情報資源 
4.交流・共同学習 
5.まとめ 
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  2000年3月21日準公開、4月15日公開予定


概要

 日本におけるインターネットの教育利用は,100校プロジェクトの終了とともに新たなステージに入ろうとしている.ここでは,国内のインターネット教育利用の第一段階(1994〜1998)終了時の状況を,教育情報リンク集「インターネットと教育」で収集している学校ホームページの開設状況データおよび1999年1月に学校のホームページ管理者に対して実施したアンケート調査の分析によって整理する.

 1998年12月末の時点で公開されている国内の小学校,中学校,高等学校,盲・聾・養護学校のホームページ数の合計の総学校数に対する比率は,昨年同期の6.6%から11.7%にまで増加した.この調査対象となった学校のうち72%がダイアルアップで,20%が常時接続でインターネットを利用している.教育・学習情報リソースやコミュニケーションメディアとしてインターネットを利用する際のいくつかの問題点が明らかになった.

キーワード: インターネット,学校,教育・学習情報,ホームページ,電子メール

1.はじめに

 日本国内のインターネット教育利用プロジェクトの先駆けとなった100校プロジェクト(ネットワーク利用環境提供事業)[1]の活動が,開始からほぼ5年を経過した1999年3月末に終了した.この5年間は,日本におけるインターネット教育利用の実験的な検証の段階(第1ステージ)と呼ぶことができる.学校においてインターネットを利用する際には,(1)接続環境の問題,(2)運用環境の問題,(3)授業実践の問題の3つの課題を解決する必要がある.第1ステージでは,これらの問題に対して様々の試行錯誤が行われた.文部省は第15期の中央教育審議会の1次答申[2]を受けて,2001年までに国内のすべての学校をインターネットに接続すると表明している[3].また,これを受けて各地方自治体における教育情報ネットワークの整備が急速に進展している.

 こうした状況から,現在はインターネットの教育利用の全国的な展開の段階(第2ステージ)が始まったといってよい.第2ステージでは,高度化するネットワーク技術に基づいた最適な校内ネットワークや地域教育情報ネットワークのデザインなどの接続環境の問題と並んで,技術・法律・倫理的な背景を踏まえた,学校や地域におけるネットワークの運用ポリシーやガイドラインの確立などの運用環境の問題が重要になりつつある.地方自治体における財政の逼迫のため,地方交付税措置だけで文部省の計画どおりにインターネットの教育分野への導入が進むかどうか不透明な部分もあるが,新しい学習指導要領によって高等学校に必修の教科「情報」が導入される2003年には,全国的なインターネット環境整備のミニマムがおおむね実現している必要がある.ここまでが第2ステージであり,その後に,インターネットが各教室で各教科において日常的な授業実践に利用される普及の段階(第3ステージ)が到来することが期待される.

 こうして急速に拡大している日本国内のインターネット教育利用の現状を把握し,問題点を抽出するために,我々は学校ホームページの開設状況の調査と学校のホームページ管理者を対象としたアンケート調査を継続的に行っており[4],今回が4回目となる.調査の対象としては,ホームページを公開している全国の学校を選択し,回答者として実際にインターネット教育利用の最前線で活躍している学校ホームページ管理者の教員に依頼していることが特徴である.

 電子メールによる「第4回インターネットの教育利用の現状に関する調査」は1999年1月15日〜2月7日に実施された.今年度は,1998年12月26日版の「インターネットと教育」[5]に記載されている4642校(高 1661,中 1231,小 1592,特 158)の学校のページの管理者を対象とした.このうち電子メールアドレスが記載されていたものが,3725校(高 1269,中 1069,小 1259,特 128)で,電子メールアドレスの記載率は80%であった.これに基づいて各都道府県別に調査依頼メールを発送し,854校(高 318,中 179,小 283,特 42,その他 32)の有効回答を得た.回答率は23%であり昨年の32%に比べて少なくなっている.従ってこのデータからホームページを公開している学校母集団の性質を推定することは難しいが,昨年のデータとの比較により回答者集団のある種の傾向を読み取ることは可能であろう.

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2.学校のホームページと接続環境

2.1 学校ホームページの開設数の推移と都道府県別開設率

 教育情報リンク集「インターネットと教育」では,更新されたリンク情報を週単位で蓄積しているため,学校ホームページ数の継時的変化を調べることが可能となっている.他の学校リンク集との比較により,学校ホームページの補足率は80〜90%程度と推定される.1998年の学校ホームページ開設数は,図1のように39校/週(昨年は28校/週)の割合で増加していた.

 今回のアンケート調査に用いた1998年12月26日版の「インターネットと教育」の学校ページのデータによれば,この時点で全国の高等学校の34.0%(18.5%),中学校の11.6%(7.0%),小学校の6.6%(3.6%),盲・聾・養護学校の16.1%(11.1%),合わせると日本の学校の11.7%(6.6%)がインターネット上にホームページを公開しており,この1年でほぼ倍増していることがわかる(カッコ内は昨年同期の値).

図1 学校ホームページの開設数の推移

 さて,このデータから,都道府県別のホームページ開設数を求め,これをその都道府県の総学校数(小学校+中学校+高等学校+盲・聾・養護学校)で割ったものを,学校ホームページの都道府県別開設率と呼び,図2に表した.学校数は平成10年度の文部省の学校基本調査報告書[6]による.

 上位10県をあげると,岐阜県(37.3%),佐賀県(29.8%),富山県(24.1%),秋田県(23.1%),香川県(22.2%),長野県(20.0%),石川県(19.5%),茨城県(18.2%),群馬県(17.7%),岡山県(17.2%)となる.下位の県では開設率は5%程度であり,上位県とのかなりの差が存在している.ただし,都道府県別開設率にかかわらず,先進的で活発な活動を行っている学校は全国に存在していることにも注意が必要である.

図2 学校ホームページの都道府県別開設率

2.2 学校のインターネット接続形態と接続環境

 1998年3月の文部省の調査[7]によれば,全国の公立学校の18.7%がインターネットに接続されており,また我々のデータから,その時点で全国の学校の6.9%が学校のページを持っていた.つまりインターネットに接続されている学校の37%(文部省調査では40%)がホームページを公開していることになる.また,表1からわかるように,ホームページを公開している学校の91%がインターネットに接続されている.

 昨年からの推移で特徴的なことは,ISDNダイヤルアップ接続が48%から62%に増加し,接続形態の主流となっていることである.専用線接続については20%で昨年の16%から微増にとどまっている.アメリカ合衆国の国立教育統計センターの報告[8]によれば,1996年から1998年にかけての3年間で,ダイアルアップ接続が74%から22%に減少し,逆に専用線接続が39%から65%に増加している.今後の地域教育情報ネットワークの整備を進めるに当たって,接続形態の問題は十分検討しておく必要がある.

表1 学校のインターネット接続形態

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 インターネット接続形態  高校 中学 小学 養護 他*  合計  比
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 未接続           12  14  27   3   2     58    6.8%
 公衆線(アナログ)     37   14  28   3   3     85   10.0%
 公衆線(ISDN)      182   114   184    24    24    528   61.8%
 専用線(64kbps〜)     71    22    19     7     2    121   14.2%
 高速専用線(1.5Mbps〜)   11    13    16     5     1     46    5.4%
 その他              5     2     9     0     0     16    1.9%
 合 計           318   179   283    42    32    854  100.0%
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 (*校種分類その他は,学校種別が不明なもの,以下の表においても同様)

 学校におけるインターネットに接続された端末数とインターネットが利用できる教室数を調べた結果を次に示す.図3に示したように,接続された端末数は,0台2%,1台19%,2-3台18%,4-5台6%,6-10台9%,11-20台8%,21-30台8%,31-40台3%,41-50台6%,51台以上7%となっている.学校あたりの接続された端末の平均台数は18台(高24台,中18台,小11台,養8台)であった.日本の学校あたりの平均児童・生徒数を390人とすると[6],今回の調査結果の対象となった学校では,インターネットに接続された端末あたりの平均児童・生徒数は22人(高32人,中21人,小29人,養12人)となりアメリカ合衆国の平均12人[8]の2倍弱となっている.

 図4では,インターネットを利用できる教室数を示した.0室11%,1室37%,2室21%,3室8%,4室4%,5室2%,6室1%,7室1%,8室1%,9室以上5%となっている.平均するとインターネットが利用可能な教室数は2.8室(高2.7室,中2.5室,小2.8室,養3.1室)となる.学校の平均学級数を12.3とし[6],学校あたりの特別教室数を仮に5とすると,今回の調査結果の対象となった学校における教室のインターネット接続率は16%となる.これはアメリカ合衆国の教室の平均接続率51%[8]に比べてかなり低い値となっている.

図3 接続された端末数

図4 接続された教室数

表2 学校の設備における問題点

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 設備等の問題        高校  中学 小学 養護   他  合計  比
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 校内ネットワークが未整備  157    76   135    23    15    406    47.5%
 接続端末数の不足         112    80   125    14     8    339    39.7%
 システム保守運営費用不足     62    25    42     7     7    143    16.7%
 回線費用不足(接続速度)       71    36    38     1     6    152    17.8%
 メールサーバが校内未設置   53    26    31    10     5    125    14.6%
 回線費用不足(接続時間)       61    10    24     4     4    103    12.1%
 接続端末機能不足         26    25    30     3     6     90    10.5%
 WWWサーバが校内未設置       21    16    24     2     2     65     7.6%
 その他            73    64   117    20    11    285    33.4%
 合 計            636   358   566    84    64   1708   200.0%
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 学校におけるインターネット接続環境の問題を2項目選択で尋ねた結果「校内ネットワークの整備が不十分である」が最も多く48%に達した.また「インターネットに接続できるコンピュータの数が少ない」が40%でこれに続く.上に示したように,校内のインターネットに接続された端末の台数は昨年の 0台(5%),1台(32%),2-3台(21%)に比べてかなり改善されてはいるが,引き続き校内ネットワークの整備やインターネットに接続可能なコンピュータの台数の確保が欠かせないことがわかる.また,新しい学習指導要領における総合的な学習の時間の導入や,各教科におけるコンピュータや情報通信ネットワークの活用を考えた場合,今後のコンピュータの設置形態としては,コンピュータ教室への集中型だけではなく,普通教室への分散配置を十分考慮する必要があるだろう.


次に続く 
3.教育・学習情報資源 
4.交流・共同学習 
5.まとめ 

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