[インターネットと教育] [URL登録] [96年度の調査結果] [大阪教育大学]


インターネットの教育利用の現状 '97.1

− 学校・学級のWebページから −

( 集計データの速報値の中間報告 )


1.はじめに 
2.学校・学級のWebページの現状 
3.学校・学級のWebページの形態 
4.必要とされる教育・学習情報 
5.Webの教育利用における問題点 
6.まとめ(と提案?) 
  〒582 大阪府柏原市旭ケ丘4-698-1
  大阪教育大学物理学教室 越桐國雄
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1.はじめに

 日本国内におけるインターネットの教育利用の現状を、学校・学級ページに関する調査を通じて概観する。まず、大阪教育大学の教育情報リンクリスト「インターネットと教育」で収集したデータから全体的傾向を分析する。 また、インターネットの教育利用においては、(1) コミュニケーション・コラボレーション(地域・国際交流、共同学習)とならんで、(2) デジタルリソース(学習資料・教材等の教育情報)の相互提供が重要な柱になると思われる。そこで、このような情報を交換する教育情報システムの現状や問題点を分析するため、昨年度に続き、「WWWによる教育情報提供システムに関する調査」を実施した。

 今年度は、1997.1.15〜2.1の期間に調査を実施した。 アンケートの対象は、1997年1月11日版の本学の「インターネットと教育」のリンクリストに記載されている1259校の学校・学級のページの管理者(各校1名)で、949名(リンク学校・学級数の75%)のアドレスをWebページから取得した。これにもとづき各県別に調査メール(FORM版参照)を発送し、498名(メール発送分の52%)の回答を得た。なお、回答は組織としてではなく、個人としてお願いした。

 現在、データ集計中だが、1997年3月7日に行われた100校プロジェクト成果発表会で報告した集計の中間速報値を以下に示す。最終結果も、「インターネットと教育」のページで近日中に報告する予定である。

#年度末で非常にお忙しいところご協力頂いた先生方に深く感謝の意を表します。(_O_)

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2.学校・学級のWebページの現状

 インターネットの教育利用活動の現状を表わすための一つの目安として、学校・学級のWebページを考える。インターネット環境における教育活動の大きな2本柱として(1) コミュニケーション(2) リソースを考えるという観点からすると、後者にバイアスのかかった調査をしていることになるが、インターネットの教育利用の現状を把握する一指標にはなるであろう。

 学校・学級のWebページをどう定義するかという問題には必ずしも明確な合意が得られていない。ここでは、一般的なディレクトリサービス(リンクリスト)などで収集されている「学校ページ」の実態に近いものとして、「インターネットと教育」のページで採用している基準を当てはめる。ただし、こちらで収集しているリンク自身でこの基準の例外も若干存在する。

  1. 学校の公式ページに加え、教師・関係者による非公式な実験的ページも含める。
  2. 学校・学級名をタイトル表示していない教師個人の研究実践ページは除く。
  3. 学校外の機関等で要覧的に作成している情報量の少ないページは除く。
  4. 情報サービス企業などで集中的に作成されている私立学校のページは除く。
  5. 同窓会のページは除く。

2.1 学校・学級ページの推移

 我々は1995年3月からの2年間にわたる、教育情報リンクリスト「インターネットと教育」の実験的運用において、更新されたリンク情報を週単位で蓄積しており、この間の学校・学級ページの時間的推移を調べることが可能となっている。もちろん、当リストで収集しきれていないページもあると思われるが、それは上記基準に該当しないか、もしくは、インターネット上に公開されていないページの場合が多い。主要なディレクトリサービスのデータは併合しているので、現在のところ国内で公開されているページで広く一般に認知されているものに関しては概ね捕捉していると考えられる。

 この図1は、毎月の最終週に公開したリンクリストから学校数を求め、1995年3月から1997年2月までの推移を示したものである。小中学校、中・高等学校などで同一ページにリンクのあるものはそれぞれ、小学校、中学校に分類した。養護学校には聾学校、盲学校も含まれている。幼稚園(保育園を含む)に関しては、他に優れたリンク集があるため、必ずしも十分なデータ収集を行っていないので、あくまでも参考値である。

図1 学校・学級のWebページの推移

この間の「学校・学級ページ」の増加率を調べると、

となっており、半年でほぼ倍増していることがわかる。最近の増加分のうち約半数がNTTによるこねっと・プランの対象校である(1997年3月初旬でこねっと・プラン1000校のうち約200校のページが公開されている)。

 以下のアンケート調査に用いた、1997年1月11日の「インターネットと教育」の学校・学級ページのデータによれば、現在、全国の高等学校の8.4%、中学校の3.1%、小学校の1.6%、盲・聾・養護学校の4.8%、合わせると日本の学校の約3%がインターネット上に何らかの形でWebページを公開している。この他にも、各地の地域教育情報システムなどの中に非公開のページが多数存在すると思われる。

2.2 学校・学級ページの都道府県別開設比

 さて、1997年1月11日の「インターネットと教育」の学校・学級ページのデータから、都道府県別のWebページ開設数を求め、これをその都道府県の総学校数(小学校+中学校+高等学校+盲・聾・養護学校)で割ったものを、Webページの都道府県別開設比と呼ぶことにする。学校数は文部省の学校基本統計調査報告から求めた。これを表わしたのが図2である。

 上位12県をあげると、佐賀県(8.7%)、富山県(6.9%)、福井県(6.8%)、石川県(6.7%)、高知県(5.7%)、山形県(5.1%)、山梨県(4.9%)、岐阜県(4.6%)、秋田県(4.5%)、香川県(4.4%)、奈良県(4.3%)、新潟県(4.2%)となる。上で指摘したように地方自治体などで積極的にインターネット接続を行っていてもインターネット上では非公開となっている学校の数はここには反映されていない。

 またこの開設比だけからは、実際の活動の質までを見極めることは困難であるが、各学校のページにアクセスすると、佐賀県高知県では教育委員会・教育センターが中心となって、先進的な活動をしていることが確かめられる。また、東北から北陸にかけての日本海側、山梨、岐阜、奈良などでは大学の教育学部等を中心とした研究会が組織され、活発な活動が行われている様子がうかがえる。一方、このランキングでは下位の県でも、学校によっては非常に進んだ取組みを行っているところもいくつかみられる。

 このように、各都道府県におけるインターネットの教育利用は、Webページの開設数を指標としてみると大きな地域差があることがわかる。また、都道府県内の学校種によってもインターネットの利用状況には大きな差がみられる。各地方自治体の方針や運用次第では、単に量的なものだけでなく質的に大きな地域格差が発生する可能性もある。


図2 学校・学級ページの都道府県別開設比

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3.学校・学級のWebページの形態

3.1 学校・学級ページの運用形態

 先に述べたように、ここでは学校・学級のWebページを教師、保護者、生徒、学校関係者などによる非公式ページも含めたものとして定義した。それでは、公開されているページのうち公式ページと非公式ページの割合はどうなっているだろうか。 これを尋ねた結果が次の表1と図3に示されている。

 学校として公認されているページが全体の2/3、また教育目的のページが全体の1/2を占め、予想以上にインターネットの教育利用が進んでいることがわかる。なお回答者のうち、100校プロジェクトは46校、こねっと・プランは65校で、合わせて111校(22%)あり、これを除いてもかなりの学校が何らかの形で公式にインターネットの利用を進めていることになる。また、教師個人の取組みなどでもその多くは、学校長など学校の了解のもとで運用していることがわかる。

 ところで非公式で運用されている場合、今回の調査に回答することがためらわれた ケースも考えられるが、公式なプロジェクト校(100校プロジェクト+こねっとプラン)の回答率と全体の回答率がともに50%前後で、その差があまり大きくないため、全体の傾向は大きく変わらないのではないかと予想される。

表1 学校・学級ページの運用形態
1 学校として公認され、学校案内、入試情報などの提供のため _74 ( 15 % )
2 学校として公認され、学校の教育・研究活動の一環として 243 ( 49 % )
3 教師個人(学級・部)の活動ではあるが、学校として了解 120 ( 24 % )
4 教師個人(学級・部)の活動であり、学校としては未認知 _28 ( _6 % )
5 PTA、児童・生徒、その他教師以外の活動 _15 ( _3 % )
6 その他 _18 ( _4 % )


図3 学校・学級ページの運用形態

3.2 学校・学級ページの接続形態

 最近、地方自治体を中心として、学校のインターネットへの接続が急速に進行している。それでは、現在Webページを公開している学校は、どの程度の割合でインターネットに接続されているのだろうか。これを尋ねた結果が次の表2と図4に示されている。

 Webページを公開していても、学校としてはインターネットに未接続のところが多いのではないかと予想していたが、Webページを公開している学校・学級のうち、インターネットに接続している学校は3/4を占めていて予想外にその割合が高いことがわかった。今回の調査から推定すると、現在(1997年3月)、公開Webページを持ち、インターネットに接続している学校は1000校を越えることになる。

 一方、Webページを公開していないがインターネットに接続している学校も多数あることが報告されており、こねっと・プランや地方自治体などのプロジェクトの進展を考えると、今年度中に全国で2000〜3000校がインターネットに接続されることも予想される。

 また接続形態としては公衆回線によるダイヤルアップ接続が主流を占めているが、100校プロジェクト校や国立大学教育学部附属学校などを中心に、専用回線接続や大学などのLANに直結されているものも1/4近くになっている。

表2 学校・学級ページの接続形態
1 学校はインターネットに接続されていない 124 ( 25 % )
2 公衆回線(ダイヤルアップ、アナログ)で接続 138 ( 28 % )
3 公衆回線(ダイヤルアップ、ISDN)で接続 116 ( 23 % )
4 専用回線(アナログ3.4kHz)で接続 _29 ( _6 % )
5 専用回線(デジタル64kbps以上)で接続 _58 ( 12 % )
6 LAN(イーサネットなど)に直結 _22 ( _4 % )
7 その他 _11 ( _2 % )


図4 学校・学級ページの接続形態

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4.必要とされる教育・学習情報

4.1 教育・学習情報の入手方法

 さて、今回の調査の主題であるWWWによる教育学習情報の受信と発信に関しての結果を示そう。まず、インターネット上の教育・学習情報をどんな手段で入手しているか、主なものを2つ選択してもらった。表3(以下表4、5も同様)では総回答者数498名を分母とした百分率で表示している。第1位は既存のメディア(53%)となっているが、WWWの総計は延べ92%に達しこれを上回っている。回答者のうち、メーリングリストに1つ以上加入しているのは36%であり、これらの人は選択枝としてメーリングリストを選んでいるようである。また、昨年の調査でも判明したように、ネットニュース、BBSの利用は非常に限定されている。

 一方、WWWの利用内訳をみると、検索エンジンが46%を占め、ネットサーフィンやディレクトリサービス(リンクリスト)の倍に達している。しかしながら別の設問で、具体的に利用するサイトを尋ねたところYAHOO!JAPAN、NTTディレクトリの回答率がそれぞれ70%、21%に達したのに比べ、ロボット収集による全文検索系は、千里眼、ODIN、TITANを合わせても17%と意外に少なく、検索エンジンとはいっても、全文検索系ではなくディレクトリサービス系を利用している可能性が高い(例えば、教育に特化した全文検索系としてチャイルドリサーチネット(CRN)があるが、その認知度はかなり低かった)。

表3 教育・学習情報の入手方法
1 書籍、雑誌、新聞など既存のメディア 265 ( 53 % )
2 同僚、友人、知人などとの直接の会話 _59 ( 12 % )
3 電子メール、メーリングリスト 178 ( 36 % )
4 ネットニュース、BBS・会議室・フォーラム _25 ( _5 % )
5 WWW(ネットサーフィン) 113 ( 23 % )
6 WWW(リンクリスト カテゴリー別索引による探索) 115 ( 23 % )
7 WWW(検索エンジン キーワードサーチによる検索) 230 ( 46 % )
8 その他 __6 ( _1 % )


図5 教育・学習情報の入手方法

4.2 要求される教育・学習情報

 次に、どんな教育・学習情報が不足しているかを尋ねた。昨年も同様の項目で調査したが、選択肢数を限定しなかったため、十分特徴が抽出できなかった。そこで、今回は回答を2つに限定している。この結果、第1位は教育実践報告で35%に達した。これに、電子図鑑・画像資料(21%)、教育用ソフトウェア(20%)、国内地域交流の相手(19%)、学習用電子百科事典(17%)が続いている。昨年の調査では少なかった教育用ソフトウェアが比較的上位にあることが特徴的である。また、図書館、博物館情報や教育プロジェクト、イベント研究会の案内が下位になっている。

 この傾向に対する一つの解釈として、インターネットの特徴としてのコミュニケーション機能に期待しつつ、同時に既存の教科の枠内で活用をはかりたいという願望が表現されていると考えられる。これに対する傍証として、自由記述欄に学習指導要領に準拠した教科別のデータ集、リンク集を指摘する声が多かったことがあげられる。インターネットの教育利用ではプロジェクト主導で行うほうが効果的であるとの指摘がこれまで数多くなされてきたが、ユーザ層の急速な拡大とともに、プロジェクト主導だけでは納まりきれないニーズが発生しているようにも思われる。

 なお、回答者の専門(または関心のある)教科としては、理科(27%)、算数・数学(16%)、社会(10%)の順となっている。

表4 要求される教育・学習情報
1 イベント・研究発表会案内 _46 ( _9 % )
2 国内地域交流の相手 _95 ( 19 % )
3 国際交流の相手 _79 ( 16 % )
4 教育プロジェクト案内 _37 ( _7 % )
5 学習指導案 _70 ( 14 % )
6 教育実践報告 173 ( 35 % )
7 図書館・文献情報 _41 ( _8 % )
8 博物館などの公共施設情報 _31 ( _6 % )
9 電子年鑑・統計資料 _50 ( 10 % )
10 電子図鑑・画像資料 106 ( 21 % )
11 学習用電子百科事典 _84 ( 17 % )
12 教育用ソフトウェア 101 ( 20 % )
13 その他 _35 ( _7 % )


図6 要求される教育・学習情報

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5.Webの教育利用における問題点

5.1 情報受信時の問題点

 次に、WWWで情報を受信する際を念頭において、「WWWで教育情報を利用する場合どんな点に困難を感じますか」との質問を行った。その結果は表5、図3に示されている。学校に必要なネットワーク設備がない(30%)は、先程の学校がインターネットに未接続(25%)をいくぶん上回っているが、ほぼこれに相当する値となっている。設備以外の問題としては、役に立たない情報が多く有用な情報が埋没(31%)、情報が一般向けで教育用でない(20%)、必要な情報が存在しない(19%)などの順となり、信頼性や新鮮度などの情報の質の問題を上回って、国内における利用可能な教育・学習情報の絶対量が不足していることを示していると思われ、各機関が積極的に教育学習のための1次情報(著作権の問題をクリアし、できるだけ再利用可能な形態で)を提供してゆく必要がある。

 また同時に、有用な情報が埋没(31%)と情報の探し方がわからない(9%)を合わせれば、これらの情報を整理して提供する全文検索型サーチエンジン、ディレクトリサービスなどの2次情報サーバの必要性はかなり高いといえるだろう。これらに関しては、出版・放送、情報サービス、教育などの分野の企業が積極的に進出しているが、地方自治体や大学などにおける、特色を持ったきめ細かなサービスも同時に必要とされるであろう。

表5 情報受信時の問題点
1 情報の探し方がわからない _53 ( 11 % )
2 必要な情報が存在しない _94 ( 19 % )
3 役に立たない情報が多く有用な情報が埋没 154 ( 31 % )
4 情報の信頼性に不安がある _37 ( _7 % )
5 情報が古いままで更新されていない _35 ( _7 % )
6 表面的な情報のみしかない _91 ( 18 % )
7 学校に必要なネットワーク設備がない 148 ( 30 % )
8 情報の転送・表示に時間がかかる 112 ( 22 % )
9 情報サーバやネットワークがよく停止 _12 ( _2 % )
10 情報が一般向けで教育用ではない _98 ( 20 % )
11 著作権の問題で情報を再利用できない _54 ( 11 % )
12 情報が外国語のままである _55 ( 11 % )
13 その他 _17 ( _3 % )


図7 情報受信時の問題点

5.2 情報発信時の問題点

 次に、「WWWで学校から情報を発信する際に障害になっていることは」という設問で、学校からの情報発信時の問題点を尋ねた。この結果が表6図4に示されている。 設備面では、児童・生徒用のハードウェア(端末)が39%、ネットワーク設備がないが先程とほぼ同じ28%となっており、ネットワークに接続されている学校においても、これを有効に利用するためには、十分な端末数の確保が必要であることがうかがえる。

 設備面以外の問題としては、校内の組織の未整備(35%)が注目される。先の質問において、学校・学級のWebページは学校として運用しているとの回答が2/3を占めていたが、その中でも校内組織の未整備を問題点としてあげている学校は、かなりの割合で存在しており、学校全体として取り組む体制が十分できていないところが多いというのがその運用の実態であるようだ。

 設備、組織の次にくるのが、運用・管理の問題である。100校プロジェクト対象校やその他一部の学校を除けば、多くの場合は学校の中にサーバをもっていないので、システム管理よりもコンテンツの管理の手間が多いことがあげられている。即ち、情報の更新に手間がかかる(19%)、コンテンツの作成に手間がかかる(16%)などである。従って、実際にWWWサーバによって情報発信することをカリキュラムの中で位置付けて評価する際の問題やWebページへのアクセスや応答の問題は、一部の先進的な学校を除いてまだ問題になっていないようである。

表6 情報発信時の問題点
1 児童・生徒用のハードウェアが不十分 196 ( 39 % )
2 児童・生徒用のソフトウェアが不十分 _49 ( 10 % )
3 学校に必要なネットワーク設備がない 141 ( 28 % )
4 サーバの管理に手間がかかる _33 ( _7 % )
5 情報の更新に手間がかかる _94 ( 19 % )
6 コンテンツの作成に手間がかかる _79 ( 16 % )
7 WWWページへのアクセスが少ない __6 ( _1 % )
8 WWWページへのレスポンスが少ない _11 ( _2 % )
9 教育効果の評価方法がわからない _24 ( _5 % )
10 個人情報保護条例による制約 _80 ( 16 % )
11 校内の承認手続きが面倒 _29 ( _6 % )
12 校内の組織が未整備 174 ( 35 % )
13 その他 _41 ( _8 % )


図8 情報発信時の問題点

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6.まとめ(と提案?)

 以上のように、100校プロジェクトが実際に活動を開始して2年近く経過し、こねっと・プランがキックオフしてまもない1997年1月の時点における、日本国内のインターネットの教育利用の現状を、学校・学級のWebページの数および運用実態、また学校教育におけるWeb利用の問題点の調査という、極めて限定的な側面からまとめてみた。

 実際の教育実践活動に即した問題点の抽出や、システム構築を行っている行政組織や地域のネットワーク研究組織などにおける内部からの視点が欠如しているため、上に述べた結論のいくつかは、アウトサイダーから見た推測の域を出ないことがあるかもしれない。これに関しては、読者の皆さんの日々の活動の実態と照らし合わせて、著者の誤った認識があれば具体的に指摘していただけることを希望している。


 以上でレポートはおしまいです。お疲れさまでした。ベータ版なので誤りなどありましたらお知らせください。以下、3月7日の100校プロジェクト成果発表会で時間切れのため十分説明できなかった部分および言い忘れたことを手短に書いておきますね。^_^;;

訂正 3 月 14 日
「表5 情報受信時の問題点」の%値がいくつか誤っていましたので訂正しました.

(1)過渡期は続く?

 たぶんまだ過渡期だと思いますが、これはしばらくは続くのではないでしょうか。インターネット事象の時間スケールとして、ドッグイヤーというのが使われていますが(うぞ)、実世界の1年が7年にあたります。で、100校プロジェクトは既に10年以上の蓄積があることになりますが、この間もコンピュータ・ネットワーク関連技術や環境が大きく変わっていたことを皆さんも実感されていると思います。そしてこの傾向はまだしばらく続くでしょうし、インターネットの教育利用の内容に関しても、参入する学校の数がさらに多くなると共に質的にも変化してくるように思えます。

(2)多様性の確保

 従って、このような変化の激しい時代を生き延びるための戦略が重要になってきます。例えば、種々の問題を考えていく際にはかなり柔軟なスタンスが要求されるのではないかと思います。手探りの各地の活動の中でさまざまなガイドラインや組織の整備が行われていくことと思います。それはそれで必要なことであり、重要なことでありますが、問題が生じたとき全国横並びの発想をするのではなく、各地域の環境や学校の実情に応じた多様な対応がますます必要になってくるように思います。

 また、非常に多くの情報があふれていることが逆に選択の可能性を狭め、特定の商品、サービス、文化への集中が起こりかねない状況が出現しています。インターネットの教育利用が結果的に教育や文化の画一化につながらないように注意する必要があるかもしれません。

(3)具体的提案

 無内容な能書きばかりたれていても、しかたがありませんから(^_^;;) 以下に3つ具体的提案をします。しかしながらこれまでに私が思いついたアイディアはことごとく企画倒れになっているか、ケチがついているか、先を越されてますから、その場合はごめんなさい。(_O_)

*みんなが選ぶ学習のためのホームページ大賞

 これまで、いくつかの学校のホームページのコンテストがありました。これはこれで校種別、教科別など様々なパターンで引き続きやっていただきたいものですね。ところで、上の調査にもありましたように、WWWの教育リソース提供システムとしての側面を考えた場合、国内の学習・教育に関する1次情報の絶対量が不足しているわけです。そこでこれをプロモートするような企画があればいいのではないかと思うです。

例えば、

で、学校教育の現場で使えるように配慮した/児童・生徒向けの、教育・学習の1次情報を作成してもらうわけです。大学などでは各々の研究分野を高校生あるいは子どもたちに宣伝する絶好のチャンスにもなりますし、このプロジェクトを通じて、どのような工夫をすれば、教育現場で使い物になるのか、どんな情報が求められているのか、などいろいろなノウハウがオープンに蓄積される可能性があります。

CEC/IPAあたりが中心になって、スポンサーとしていくつかの企業に声をかけてやっていただいて、1等賞金100万円とかだと貧しい教員養成系学部ではとてもうれしいです、はい。なお審査員には学識経験者などを含めず、純粋に現場の先生方と子どもたちで選んでもらいます。エントリーしたページを集約して投票で決めます。この作業のなかで、学級においても、活発に議論していただいて、Webページにおける情報の表現内容や表現方法に関する選択眼が養われるでしょう。

3年目の企業対象の場合はやはり公共的な組織が主催しないとマズイでしょうが、この場合、賞金は不要ですし、場合によっては参加料を徴収して運営にあてることができるかもしれません。企業の持っている情報で教育・学習に使えるものというのもたくさんあるのではないでしょうか。

#いちおうこれに近い企画としてAVCCが実施している公共ホームページコンクールなどがありますが、おもに学校における学習・教育に的を絞ったところと審査員の構成などが違いです。

*地域における縦のネットワーク

 私の子供が公立小学校6年生なのですが、先日学区内の中学校から先生がお見えになって、社会、数学、理科、英語の体験授業をやっていただきました。うちの子は理科のクラスでしたが、楽しい実験ができたといってとても喜んでいました。これまでも地域のネットワークをインターネットの教育利用の柱として研究実践されているところがありましたから、もう既に行われているのかもしれませんが、同じ学区内の小学校と中学校の交流を進めるためにインターネットを契機としてはどうだろうかということです。

 小学生にとっては、中学校の様子がわかって不安が取り除かれるだろうし、中学校の先生の顔にもなじんでおけます。中学生は、困ったことがあったときに小学校の先生にも相談できるし、先生もアドバイスできるかもしれない。また、中学生が小学生に教えようというテーマで、学習の動機つけとし、さらに「教えることは学ぶこと」で自分自身にとってもより深い理解が得られるかもしれない。あるいは、中学校で九九がわからなくて困っている生徒がいるとすれば、単なるお話ではなく、そのことを実態として小学校にフィードバックできればどうだろうか。などなど(うーんほとんど素人のたわわごとですね ^_^;;)。

*スナップショット'97

 最近強く感じているのは、コンピュータに蓄積されたデジタル情報がネットワークで盛んに流通するようになって、デジタル情報自身の流動化が進んでいるのではないかということです。紙に印刷した情報と異なり、非常に容易に編集、修正できる。そしてその後が残らない。これが、情報の固定化、確定化を妨げているのではないかという印象があります。

 例えば、皆さんが作成されたホームページのデータは、日々更新されていますか。 もしそうなら、1年前のデータは保存してあるのでしょうか?100校プロジェクトの場合などは、CEC/IPAによって一部CD-ROM化されているとは思うのですが、ある時点でのWebページの内容のスナップショットを取って置く必要はないのでしょうか? いろいろな教育実践は、書籍の形で固定化されれば、歴史的な研究の対象となりえるでしょう。しかし、インターネット上のWebページが連続的に更新されていくとすれば果たして、10年後に現在を振り返って検証しようとしたとき、肝腎のデータはどこにもなかったというようなことにはならないでしょうか。(そんなものなくてもかまわないという説もあるかもしれませんが・・・ ^_^;;

 それぞれが独立に、ある日一斉にスナップショットをとってMOやCD-Rに固定化しませんか。でもいざとなったら面倒だろうなぁ。(注)外部からこれをやると完全に回線がマヒしますよ。ものすごいデータ量のところもありますから。


 以上でおしまいです。もし、これらの件に関してご意見、ご質問などありましたら遠慮なくお知らせ下さい。 日頃から情報をお寄せ下さっている皆様、メーリングリストや100校プロジェクト成果発表会などで貴重なお意見をお聞かせいただいた方々に深く感謝いたします。また会って楽しい話がしたいですね。


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